2020年9月22日火曜日

【上信電鉄撮影記事】2019年9月23日、上信150形153-154編成「ホワイトタイガー」運用最終日の奇跡


■上信電鉄150形153編成の引退から1年
上信電鉄への700形電車の導入により1年前のちょうどいまごろ、2019年9月23日に150形電車153編成(クモハ153-クモハ154の第2編成。以下153-154編成と略)は最後の営業運転を行って運用離脱をした。この電車は首都圏に残されていた最後の「西武湘南型デザイン」の電車であり、国内最後の西武801系電車でもあった。伊豆箱根鉄道の3000系電車や5000系電車も「西武湘南型デザイン」の派生といえなくもないかな。そして、ほかの150形電車が運用入りしていたころは正直にいうと私はこの広告ラッピングを好ましくは思えなかった。

けれども姿が見られなくなるのはさみしいなと思い、昨年9月には何度か通った。とくに、西武401系電車由来の151-152編成と西武701系電車由来の155-156編成の最後を見ることができなかったことも心残りだった。この153-154編成の運用離脱直前のころのようすはすでに記事にした。それなのに、運転最終日の様子を書こうとしてずっと忘れてしまっていた。2020年9月に上信電鉄沿線にひさしぶりにおもむいたら、高崎検車区には153-154編成がまだ残されていたのを目にして、そういえばと思い出した。運用離脱からちょうど1年経ついま、あらためて記事にしようと思う。


2019年9月上旬から上信電鉄沿線には通ってみたものの、153-154編成はじっさいには運転最終日まではなかなか走ることがなかった。意図的に休車にされていたのだと思われる。そして、運転最終日が近づくにつれて、運行ダイヤの公表が始まって運用にふたたび入り始めた。特製ヘッドマークが取りつけられ、最終日にはひさしぶりにパンタグラフをふたつともあげて用いられるなど、上信電鉄の「中のひと」のみなさんによるファンサービスも行われていった。いま思うととてもありがたい。

■最終日にちょっとした「奇跡」が起きた
もっとも私はあいかわらずで、早起きして朝からはりつくということはせずに、いつも午後からふらりと行ってカメラをセットしていた。最終日も同様だ。高崎に着いたのは午後やや遅く。とはいえ、ひさしぶりの晴れ間が見える日だったので153-154編成が来るのを楽しみにしていた。ところが、日没前にどんどんと黒い雲が湧いてきた。高崎行きの上り列車がやってくる夕方にはあたりは暗くなってしまった。

それもしかたがないな……と思いながらその折返しの下り列車を待ち続けた。ただし、少しでも空の明るさが残る部分を強調しようと、ライカスクリューマウントの35mm広角レンズJupiter-12からM42マウントの85mm中望遠レンズMC Jupiter-9に交換して待った。思えばそれがよかった。

近くの踏切警報機が鳴り始めたころに、空が突然明るくなり始めた。雲の切れ目から太陽が顔をのぞかせたのだ。あたりが残照に照らされ始めて、さきほどまでの陰鬱な雰囲気がみるみるうちに明るくなった。これにはおどろいた。

列車が通過するまでは暗くならないでくれよ! と願い続けているうちに153-154編成が橋梁を渡りはじめた。画面内に列車の姿が見えたので、心拍数をかなり上げながらα7IIのシャッターボタンを押した。



■こういうことがあるから写真はやめられない
列車の通過後におもわず歓声を上げた。こんなにダイナミックな空模様を背景にして列車を写せたことはそうそう多くはない。しかも、パンタグラフが2つともあがっているところもよかった。どんなときでも可能性があるならばあきらめてはいけないものなのだろうなあ。いや、見切りが大切なこともあるか。東京農業大学第二高等学校野球場そばで撮影されていた方とこのあと立ち話をした記憶がある。あの日の差し方には興奮しましたよね、と。Twitterで見た富岡市内でほかの方が撮影された写真でもそんな感じだった。このタイミングで沿線にいらした方にはそんなチャンスがあったのだと思う。行かなくては写真は撮れないものね。

そうして下仁田へ向けて去っていった下り列車を追いかけるために、最寄り駅へ向かった。すると、道中では電車ではないほうの「タイガー」模様といいますか……のらねこに出会い、さらには駅の近くの家のねこにも出迎えをうけた。このあたりもついているなあ。今日はじつにおもしろい日だ。



■下仁田からは153編成のお別れ乗車
さて、下仁田へ向かう下り列車に乗って、列車の最後尾から残照に照らされる風景を見ていた。あたりいちめんが茜色に染まっていて、その風景を撮るためにいっそのこと降りようかと何度も思ったほど。ここまで赤く照らされるのはそう多くはない。けれど、下仁田まで我慢して列車に乗った。さきほど橋梁で撮った153-154編成が下仁田にいるはずだからだ。そうして下仁田に着くといちど外に出て休憩してから、上り列車として出発準備をしていた153-154編成に再び乗り込んだ。下仁田滞在時間は30分程度だろうか。ヲタな行動そのものだ。


下仁田を出た153-154編成はすっかり暗くなったなかを甲高いモーター音を鳴らしてゆらゆらと揺れながら走った。この音を聞いているだけで、この電車が西武新宿線を走っていたときのようすを思い出す。高校性のころはとくに電車通学をしていて西武新宿線には毎日乗っていたから。思わず目を閉じてみる。

とはいえ、目を開くと21世紀の上信電鉄沿線であることに気づく。自分も高校生ではなくて見知らぬ中年だった。そして、休日の20時前なので乗客はまばらで、お名残乗車をするヲタがいるだけ。スマートフォンやICレコーダーで必死に走行音を録音しているひとが何人も目につく。かくいう私も手持ちでiPhoneで動画を撮ったけれど、手ぶれが多いので個人の記録にとどめておく。三脚用のスマホホルダーもパーマセルテープも持ってくるのを忘れていた。

とはいえ、せっかく乗った上り列車なのに高崎にほど近い駅でまたもや降りてしまった。折り返して再び下り列車になる姿を撮るためだ。駅の周囲を歩いてみたものの、頭のさえは夕方で使い果たしてしまい、これぞという絵柄が浮かばない。そうして結局はまた似たような絵柄で撮った。似た感じにこの数日前にも撮っているのになあ。



20時半ごろに153-154編成の下り列車は戻ってきた。乗降客はひとりもいない。列車が下仁田方向に向かって再び走り去るのを見届けてから、私も家路につくことにした。ぼんやりと耳を傾けていた待合室のかけ時計が時を刻む音をいまでもよく覚えている。こうして153-154編成とは私もおわかれをした。

【お願い】ねこがいる駅のことは、上信電鉄が好きでよく通われている方ならば、よくお読みになればどの駅であるかは容易に判別できると思います。それゆえに、私は意図的に駅名を明記していません。駅で飼われているねこではありませんので、なおさら保護のためです。コメントをいただく際にも駅名を書き込むことはくれぐれもご遠慮くださいますよう、お願い申し上げます。

【2023年2月6日追記】
駅長さんの貼り紙によると、さる2月3日にねこは永眠したそうです。

【撮影データ】
Sony α7II/Jupiter-12 35mm F2.8(LZOS M39), MC Jupiter-9 85mm F2.0(LZOS M42)/RAW/Adobe Photoshop CC 2020