2024年12月29日日曜日

【秩父鉄道撮影記事】茶罐デキ105を先回りして待ち構えて撮った話

かすれた汽笛とともにデキ105がやってきた

■ナナハチに乗り込んで……大爆睡
三輪(みのわ)鉱山を出る列車を7404列車まで見届けたら、すっかり体が冷えた。そこでふもとの駅を見渡す踏切に行き、入れ替え中の5001編成と7801編成を観察した。

三輪鉱山までやってくる鉱石貨物列車は4本で終わりのようだった。5001編成が充当された1532列車にも乗れなくもなかったが、ほんとうに三輪鉱山行きが4本で終わりか確かめるために少し待った。

結果からいうと、三輪鉱山行き鉱石貨物列車はやはり4本だけだった。この日は「湯乃澤橋」と刻まれた橋を去る際に「もしかしたら今日は5本めが来るかもしれねえ」と「三輪鉱山の主(あるじ、もしくはぬし)」氏がためらいながら教えてくれたのもあって、確認したくて乗る列車を遅らせた。主氏、いつも親切にいろいろ教示してくれてありがとう。

7801編成が充当された約30分後の1534列車に乗り込んで、上り方向へ行くことにした。東武鉄道発行の「東武鉄道×秩父鉄道SAITAMAプラチナルート乗車券」を持っているから、ふかや花園までフリー乗降ができる。上り列車から鉱石貨物列車の牽引機の観察をしようと考えた。

武甲山ふもとの駅では留置中の5001編成と7801編成が
13時台に次々と出庫した

そうして、鉱石貨物列車の運用確認をするはずだった。ところが、武甲山ふもとの駅でナナハチの座席に座ってからの記憶がない。夜ふかししたうえに、始発列車に乗るために寝坊を避けたくてほとんど眠っていなかったのだ。

途中の武州原谷貨物駅を通過するさいにも目が覚めず、和銅黒谷で下り鉱石貨物列車と交換したことはわかったものの、牽引機を確認できなかった。あいかわらず「やらかしている」よな、私。

■「かんぽの宿」のあった駅でなにげなく降りた
列車は冬の午後の柔らかい日差しを浴びて上り方向へひた走る。荒川橋梁を渡り、長瀞で乗降があり、それから一路羽生を目指して疾走していく。荒川の渓谷が窓の外でちらりと見えるころになって、そろそろ目を覚まそうと考えて私は一生懸命になって目を開けた。

かつてかんぽの宿のあった駅でなにげなく降りることにした。旅客列車が鉱石貨物列車とも列車交換が行われることのある駅だ。すると対向ホームにやってきた下り列車には7002編成が充当されていた。

7002編成は秩父には2編成しかない東急8500系電車由来のうちの1編成だが、7001編成とことなり、両端の先頭車は中間車から改造されている。運転室部分を新調するさいに、正面3枚窓の中央窓を左右窓と同じサイズにしたために、もともと先頭車だった車両とは正面中央窓のサイズが異なる。長野電鉄8500系T6編成のように「貫通路ふうの意匠」にするには中央窓の窓ガラスのサイズを小さくする必要があったろう。それでも、7001編成との意匠の差異をできるだけ小さくするためか、東急テクノシステムでの改造時にグレーの粘着テープで四角い枠が設けられていた。「なんちゃって貫通路」とでもいおうか。

2009年の改造後15年経った現在、その「貫通路ふうステッカー」がかなり劣化して剥離しかけている。デハ7002もデハ7202の両者ともにだ。次の検査入場時にはこの「なんちゃって貫通路ステッカー」はきちんと剥離して、なくしてもいいのではないかな。そのほうがすっきりするはずだ。もちろん筆者の勝手な妄想に過ぎないが。

7002編成の「貫通路ふうステッカー」は消えかけ

さて、この駅で降りたのはもうすぐ下り返空の鉱石貨物列車7205列車がやってくるはずだと思い出したから。駅そばの踏切には「14:37〜14:48分」の「11分間」ほど貨物列車が踏切をふさぐとある。旅客列車の退避などで副本線上で停車するという意味だ。その牽引機を確認するのもいいだろうと思ったので、下車したというわけだ。

7205列車は11分間踏切を支障して退避する

■カーブを曲がって姿を現したのは
下り鉱石貨物列車の到着までには15分程度しかないが、駅周辺をわずかに歩いた。紅葉はすでに終わっているが、それでも葉が残った木々を見るのも楽しい。だが、この駅では下り鉱石貨物列車を撮るには、上り方向へ歩いてはいけないことを寝ぼけ眼で思い出した。そこで、あらためてプラットホームに入り、そこで待つことにした。

アンタ、なんなのさ

AI AF Nikkor 180mm f/2.8D IF-EDを使えば副本線に入る下り貨物列車をそれなりにはねらえるか。レンズ交換をしているうちに、遠くからかすれたような汽笛の音が聞こえてきた。デキ300形や500形ならばもっと大きな澄んだ音がする気がする。かすれたようなこの音はもしかして……次の瞬間、カーブを曲がって姿を現したのは、いちばん撮りたいと思っていたデキ105だった。マジか。

塗装したてでまだあちこち輝いている

赤みの強い茶色なのだということを思い出した

■下り列車で先行してゾルトラーク! 

デキ105は11月から12月にかけて検査入場をして再塗装が行われていた。このときは知らなかったのだが、この12月26日に通常運用に初復帰したそうだ。だから、塗り替えたばかりの塗装に艶があり美しい。5月に見たときにはだいぶ艶が失われていて、気にしていたのだ。

7205列車は前述のようにかんぽの宿がかつてあった駅で11分停車して、旅客列車の三峰口行き1531列車の退避を行う。1531列車は3分ほど先行して発車するから、それに乗って下り方面へ行けば7205列車を待ち構えることができる。鉱石貨物列車は足が遅いので遠くへ行けば行くほど時間稼ぎはできるが、冬至直後で日の入も早い。

仮眠をとってすっきりした頭で、下り貨物列車を撮影できそうで下車駅から遠くない場所を必死で脳内検索して考えた。「太陽が低い時期に」「かんぽの宿のあった駅よりも下り方向」で「下車駅からも遠くない」場所という3つの条件を兼ね備える場所だ。昭和年間から秩父鉄道通いを続けている俺氏、必死で考えろ。

「アウラ、お前の前にいるのは1000年以上生きた魔法使いだ」(『葬送のフリーレン』より魔法使いフリーレンのセリフ)

先日の鉱石貨物列車の運休の日に使ったあの場所ならば、午後遅くても日陰にならないかもしれない。1531列車に揺られながら『葬送のフリーレン』のセリフを思い出しつつ、撮影地を決めた。1000年以上は生きてはいないけどな。

300mm用レンズフードとレンズ用のアルカスイスプレートを
自宅に置いてきたが、そんなものはなくても工夫できる。
「アウラ、お前の前にいるのは1000年以上生きた魔法使いだ」からね

そうして撮影地にたどり着き、上り1538列車を試写に利用しながら構図を決めた。事前に構図と使うレンズは決めてあったから、その確認だ。AI AF Nikkor ED 300mm F4S (IF)で背景を大きくぼかして簡略化するつもりだ。魔法はイメージできるものにしかかけることができないそうだが、写真も同じだ。事前に絵柄が予想できるならば撮影できるのではないか。

上り列車で試写した

さいわい、日も差してきた。もっとも、太陽が低いこの時期は並木の木々が列車の車体上に影を作りがちだ。だが、列車の先頭に日が当たる箇所もこの時間ならばまだある。それでも、撮れたらいいと願っていた列車を待つのは、撮影回数を重ねても緊張する。

「怖がることは悪いことではない。この恐怖が俺をここまで連れてきたんだ」(同上より戦士アイゼンのセリフ)

午後は引用するセリフが『機動戦士ガンダム』ではないのは、前夜にアマゾンプライムビデオで『葬送のフリーレン』をまとめて見たから。俺氏よ、緊張などするな。

「腹を括れ。男だろうが」(同上。宮廷魔法使いデンケンのセリフ)

到着してから20分ほど待ったろうか。上り方向の踏切警報機が鳴り始めて、かすれた汽笛と吊り掛け駆動の重々しいモーター音とともに、待ち望んでいた7205列車が姿を現した。AF-ONボタンを押しながらレリーズ位置を探り、「ゾルトラーク」と唱えながらレリーズを繰り返した。やったぜ。

7205列車がやってくるタイミングで日が差した

「ゾルトラーク」と唱えながらレリーズを繰り返した

【撮影データ】
Nikon Df/AI AF Nikkor 180mm f/2.8D IF-ED, AI AF Nikkor ED 300mm F4S (IF)/RAW/Adobe Photoshop CC 2024