2020年5月18日月曜日

【秩父鉄道2011年11月】新郷から武州荒木を歩きながら1007編成チョコバナナと「余白」を撮ろうとした日


■何度かお見せした写真なのですが
いずれも以前のブログでお見せしていたし、本の原稿でも使ったものです。このブログにアップした気がしていたのに、管理人自らが見つけ出せない……なんだそりゃ。そこで、いささか申し訳ないのですが……あらためて公開いたします。

■秩父鉄道新郷〜武州荒木のこと
父鉄道秩父本線のうち、北武鉄道が開業させた羽生〜熊谷の区間で、羽生市と行田市の境界あたりを走る新郷〜武州荒木と武州荒木〜東行田には、市街化調整区域なのだろうか、農地が広がっている一帯がある。駅周辺に住宅がある程度で、駅間には高い建物もないので、開けている感じが好ましい。武州荒木駅前の使われなくなった農業倉庫は近年解体され、そばにあった大きな木も伐採されてしまったとはいえ、少なくとも1990年代からはあまりようすが大きくは変わらない。秩父鉄道のイベント列車や東武鉄道の回送列車が走ると、その姿をおさめようとする撮影者が集結する。秩父鉄道や東武鉄道が好きなひとたちには「養豚場」としてよく知られた場所だ。いろいろなミュージックビデオのロケ地にも使われているようだ。都内からも遠くないのに、開けている雰囲気で撮ることができる数少ない場所かもしれない。


1970年代終わりまでは貨物輸送も行われていたようで、武州荒木駅前や新郷駅前にある農業倉庫や武州荒木駅の大きな構内はその名残りらしい。古い写真に、東武7800系電車などが自走して羽生〜寄居を回送されている姿なども見る。いまでも、熊谷工場に入場した電車の試運転が行われるときには、武州荒木で折り返すのか。側線に停車している姿を見られることも。

冬晴れの日に新郷から歩いた
この場所は標高は低くても冬場は冷える。高い建物がなく冬の乾いた風、いわゆる赤城おろしが吹きつけるからだ。風の強い日に歩こうとして途中で断念したこともあった。冬だと巻き上がった砂ぼこりも浴びるので風に吹かれると痛いこともある。これらの写真を撮った2011年11月のこの日は、風も弱くおだやかな一日だった。そのころ入院していた鴻巣の病院を午後遅くに出て、熊谷から羽生行き列車に乗り込み、たいていは武州荒木で降りるのに新郷まで乗り、武州荒木まで歩いて戻った。この区間は乗っていても気持ちがいい。




■1000系電車にも遭遇した
秩父鉄道にでかけたらこのころの自分のねらいはもちろん、1000系電車だったはず。熊谷からは1007編成チョコバナナに乗った。その折返しの列車と1005編成秩鉄オリジナルカラーを撮っている。1005編成の写真はKindle電子書籍の拙著『ぼろフォト解決シリーズ 043 Nikon D2Xで秩父鉄道を撮る!』にも使った。

新郷〜武州荒木の駅間距離は2.2kmとある。じっさいに歩いてもほとんどの区間で線路を歩くことができるので、まっすぐ歩けば30分程度だろう。私は行くと40分おきに来る列車を撮るためにもっとずっと時間がかかる。


この日は風が弱いぶん空全体がぼんやりとオレンジ色に染まるような天気だった。列車がやってくるタイミングと空のようすは必ずしも合うわけではないから、やきもきしながら列車を待っていた。日差しや、あたり一面になにも見当たらない開放感にあふれるようなこの感じをどうすれば写真にできるだろうと思案した。そこで、列車が来なくても線路沿いで目にしたあれこれをなんとか写真にしようと思った。なんとかうまく写真にしないともったいないとも思えたから。列車の本数がそう多くはない地方私鉄での撮影ではそういうことはよくある。






■「余白のカメラアイ」
中学生のころに『ぼくのローカル線』(写真集)(写真:広田尚敬、文:嵐山光三郎、山と溪谷社 1988年)を手にしてはため息をついていたという話は以前も書いたことがある。数年前に図書館除籍本を手に入れたことも。最近またあらためてページをめくりながらううむううむとうならされている。本書のなかにある広田さんの文章にこうあった。

「列車が来ない余白の時を、余裕をもって撮影にいそしむ時に、私は心地よい喜びを感じているようである」

列車にばかり夢中だった中学生の私にはそんな心地よさはなかなか感じられなかった。フィルムで写しているころは使えるフィルムのコマ数も少なかったから。経験を積まないとなかなか「列車の来ない余白の時」に「心地よい喜び」を感じるなんてできないかも。そう思うと、余暇をいかに過ごすかというのも、経験や練習が必要なのかもね。「余暇の過ごし方の練習」だなんておかしいな言い方だが。

おとなになってデジタル一眼レフを手にして鉄道趣味に出戻りして、列車だけ写すのではなく、列車に乗ることも楽しんで、沿線の雰囲気をもっといろいろと写してみたいと思っていたのは、この本のこんな一節にあこがれたからだ。デジタルカメラならフィルムよりもたくさん撮ることもできる。

好きな車両があるからその鉄道沿線に出かけるので、車両を撮るのはもちろんだ。ただ、まず列車に乗ることも楽しみたいし、車両を待つあいまにもなにか沿線の印象をうまく写しておきたい。2011年末のころは、入院生活にカメラを持って散歩ばかりしていて時間はとにかく持て余すほどあった。そこで、こうしてのんびりとした撮影を心がけていたのだろう。写真の腕はいまよりも稚拙だったけど。それから10年近くたつ。いまはもっとうまくのんびりした撮影ができているだろうか。いや、のんびりした雰囲気をうまく伝えることができているだろうか。そしてなによりも、列車に気持ちよくゆられることができる日が待ち遠しい。

【撮影データ】
Nikon D2X/AI Nikkor 50mm F1.8S, AI Nikkor 180mm F2.8S ED/RAW