2013年12月21日土曜日

【ロシアこぼれ話】ルージニキ地下鉄橋の旧レーニン丘駅のこと

中央は閉鎖中のプラットホーム。右の曲線しているものが地下鉄の仮設橋上のトタン屋根の覆い
先日、モスクワ地下鉄の話を少しさせていただいた。そこに貼った写真のなかにあった当時休止中だった旧レーニン丘(レーニンスキエ・ゴールイ)駅のことを書こうと思う。
かつての駅ホーム入口。左右の残骸はエスカレーターのステップ
この駅は1959年のサコーリニチェスカヤ線の延長に合わせて開業した。モスクワ川を渡る橋(ルージネツキー・メトロモスト:ルージニキ地下鉄橋)の1階部分にあり、ソビエト地下鉄初の橋上駅だった。ガラス張りで眺望がいい駅で、おそらくモスクワ地下鉄でも自慢の駅だったろう。ソフィヤ・ローレンとマルチェロ・マストロヤンニの主演するイタリア映画『ひまわり』にも登場する。丘の方からは川沿いの駅入り口に行ける長いエスカレーターも作られていた。

鉄の残骸のそばに「ヘヴィー・メタル」と落書きするセンスは中学生っぽい
そもそも、このレーニン丘とは市の南西部のモスクワ川沿岸にあり、かつては別荘やお屋敷の数多く立ち並ぶ場所だった。いまでも緑の多い景勝地で、展望台からは市内が一望できる名所だ。モスクワ市内で結婚式をあげたカップルがしばしば訪れる場所としても有名だし、白樺の林のなかにスキーのジャンプ台もあり、季節を問わず散歩にも楽しい市民の憩いの場所でもある。戦後は町の拡大とともに、モスクワ大学の新館が建てられた。私はこの丘の方向を向いた部屋に一年ほど住んでいたので、しばしば丘やモスクワ川沿いに散歩に出かけた。
奥の新しいのが仮設橋。手前の橋脚コンクリ部分も作り直されていた
そんな素敵な場所の限界口になる駅だ。だから、大理石によるスターリン・ゴシックふうのデザインではなく、軽量化のためにもガラスとアルミ、鉄骨とコンクリートで近代的なデザインが選ばれたのだと思う。
丘の上と河岸通りを結ぶエスカレーター
ところがそれが災いしたのか、設計時の強度計算ミスや工事中のコンクリート部分への塩の使用(工期短縮のためとされる*1)、防水の不備などから劣化が急速に進んでしまった。開業後すぐに線路部分への雨水の漏水事故やアルミニウムを用いた部材の崩壊も起きた。1983年には想定された重量の60パーセントしか耐えられないことがわかり、とうとう閉鎖されてしまった。その後、ソ連国家自体がなくなったり、ハイパーインフレや経済危機にほんろうされ、実に16年も閉鎖されたままだった。
近代建築ほど廃墟になると痛々しい
壁は落書きだらけ。近所のガキどもの探検場所だ
筆者がいたのは駅の休止中だった1994年から一年ほどのあいだだのことだった。丘にあるエスカレーターの遺構(*2)や工事現場をしばしばうろうろしていた(もはや時効だと思うけど、囲いもなく近所の子どもたちも忍び込んで遊んでいたくらいだから、お許しいただきたい。)
丘の上の入口から見たエスカレーター
 撮りながらもとても複雑な気持ちだったことを覚えている。かつて映画で見た美しい駅が、無惨な姿をさらしていた。国家が崩壊するとはこういうことなのだと思わされた。ソビエト体制に思い入れなどはない。むしろ「悪の帝国」とレーガンが呼んだ時代に少年時代を送ったくらいだ。でも、かつての自信をなくした人々の絶望的なあきらめをかいま見るようだったから。

崩落の危険性があったために、その間に橋の左右(駅は島式だった)に仮設地下鉄橋が架けられており、その上はトタン張りのトンネル(スノーシェードかもしれない)で覆ってあった。もっとも、電車で通過するとカーブでスピードが落ちるうえに、トタンの隙間から川が見えるのでこの駅を通過していることはすぐにわかった。

さて、ロシア経済危機による外国企業の撤退とロシア企業の立ち直り、原油価格と天然ガス価格の高騰によりロシア経済が経済成長を見せ始めた頃になって。駅の再建は始まった。1999年より駅の工事を開始され、2002年にリニューアルオープンしたそうだ。その際に、この地のかつての名前である「雀が丘(ヴァラビョーヴィ・ゴールイ)」と改称された。再建後のようすを見に行くことができたらと思う。

*1「設計時の強度計算ミスや工事中のコンクリート部分への塩の使用(工期短縮のためとされる*1)」:橋の建設は1958年から59年だそうだ。すでにスターリン時代ではないので、無実の政治犯(ザクリュチョーンヌイエ、略してゼーカー)がかり出されたのかどうかは不明。少なくともモスクワ大学新館の建設や先日のカルーガ広場の建物建築には政治犯たちが関わったことは、ソルジェニーツィンの著書などにある。それはともかく、「工期短縮のために塩を使い、そのせいで劣化が早まった」というあたり、厳しい工期とノルマをあてがわれてのソビエト時代の俗語「トゥフタ」(指示通りに働かず手を抜いた仕事のこと。ごまかし、いんちき。おから工事。収容所用語で「重肉体労働」の略。まともに指示通りに働くと命を落とすような重労働だから)なのではないか、という気がするのだが。

*2「エスカレーターの遺構(*2)」:こちらはまだ解体されず、数年中に解体される予定だとか。

0 件のコメント:

コメントを投稿